話は飛ぶのですが、また用途地区関係に話を戻したいと思います。
固定資産評価における用途地区判定の意義、といいますか、用途地区によって具体的に土地評価のプロセスで何が違ってくるのか、ということについては、普通の不動産鑑定士は実はあまり知らないことが多いです。
標準宅地の評価をしていると、その標準宅地の用途地区が何か、ということは分かるのですが、それと評価は話が別、と考えている鑑定士が多いのではないでしょうか?
といいますのは、似たような評価に税務署の相続税標準地評価というのがありまして、こちらも用途地区が決められています。相続税路線価のページを見ると、路線価の周りについているマークで用途地区が分かるようになっている、あれのことです。
鑑定評価では、
①最有効使用を決める→②最有効の用途も自動的に決まる→同じ用途の取引事例などから価格査定する
という手続きなので、鑑定評価で重要な用途というのは、通常、最有効使用の用途ということになります。これを専門用語で用途的地域といいます(厳密には少し違います、専門家の方、つっこまないように)
で、この用途的地域と用途地区が常に一致していればなにも問題ないのですが、実際はかなり違っているんです。
これは、税務署も市町村もです。
まず、税務署なんですが、どうやって用途地区が決められているのか、不明です。きちんとした基準はないものと推測します。たぶん、現況用途を見て、まあ住宅が多ければ普通住宅、幹線道路沿いであれば、普通商業・併用住宅地区という感じです。ちなみに税務署では普通商業と併用住宅が一緒になっていて区別がありませんが、固定資産評価では(一応)異なる用途地区に分類されます。
例えば、相続税標準地の場合、例えば、ちょっとした幹線道路沿いが、税務署で決めている用途地区は普通住宅、鑑定上の用途的地域は商業系ということは非常に良くあります。
全く珍しくないので、違っていても良い、と解釈して鑑定は行われています。
実際、相続税評価でも画地計算は用途地区に基づいた一覧表が適用されるので、違っていても良い、というのは理論的にはおかしいです。といいますか、鑑定評価でいうところの最有効使用の原則や正常価格の概念が適用されているとは言えません。ただまあ、相続税が発生するのは、ほんとにたまにですし、普通の人はまず関係ないですから、多少大雑把でも許されるかも、とは思います。
で、、、固定資産評価の場合は、相続税よりもはるかに多くの問題が用途地区に絡んで発生します。
今日は併用住宅地区について述べたいと思います。
そもそも不動産鑑定士的には(あるいは用途的地域としては)併用住宅地区というのは、おかしなネーミングです。すごい違和感あります。どっちなのよ!、と言いたいです。さらに言うと、なにと併用なんでしょうか?店舗とか工場とかいろいろでしょうか?
わたしの住んでいる愛知県では、併用住宅地区は「店舗併用住宅」と解釈して、商業系の取り扱いをしている自治体が多いです。これは妥当な運用と思います。
ところが、
①用途判定の基準が全体的にあいまいで、
②そもそも用途判定が現況主義だったりして、用途的地域と用途地区を一致させる必然性への認識が乏しくて、
③なにと併用なのかも分からない併用住宅なんてどうやって評価するの?
、ってことでいろんな概念がぐちゃぐちゃになって、説明不能になっている自治体が多いのではないでしょうか?
これは、そもそも固定資産評価基準に問題がありまして、要するに鑑定評価が導入される前の基準のまま20年以上放置されているんです。正常価格の7割と決めた時点で用途地区の概念も本来は明確にすべきだったわけです。
ところが、実際は実務上の問題がありまして、じゃ用途的地域って誰が判定するの?ということになります。不動産鑑定士は国家資格ですから、鑑定書のなかでそういうことを判断する特権があるわけですが、では自治体の職員の方がやるとしても、なかなか自信を持ってやりにくい・・・ということになるわけです。
以上、問題を整理しますと、
①そもそも用途地区上の併用住宅は住宅なのか商業(あるいはそれ以外)なのか、判然としない。
②鑑定はなんらかの用途的地域で評価されてしまう。
③市町村の路線価計算がどんな用途を前提にしているか、あいまいである。
④画地計算の基準はなぜか普通商業と一緒になっており、商業系と推測される。
例えば、ある併用住宅地区の路線価について
鑑定:商業と判断
路線価計算:住宅系の要因で計算
画地計算:商業系の補正率表を採用
みたいなことが本当に発生します。実際に全国津々浦々な自治体で発生している現象と推測します。なんかもう、本当に分かりにくいですね。